時間の多層性とは? ポップソングにおける時間体験を分析してみる①

『いま・ここの時間、リニアな流れの時間』

時間とは不思議なものだ。なぜこんなことを言い出すのかというと、以前の投稿でシティポップに感じる「不思議なノスタルジー」について書いたことが、きっかけだ。海外のリスナーが、2019年の今、1970年代や80年代の日本の音楽を、「懐かしさ」と「新鮮さ」がないまぜになった独特の感覚で聴いている。「過去と現在と未来」が交錯する時間。そんな時間体験を、ポップソングを通じて分析してみることにした。

ところで久々の投稿になってしまった。今回は、以前のコメントのリクエストにお応えする内容となっています。

・時間体験の3分類

本記事では、時間体験を以下の3つに分類した。(今回の記事は①と②、次回は③を扱うことにします。)

①いま・ここの時間
②リニアな流れの時間
③回想と再編成の時間(メタ的な時間)

分類の理由は後述するとして、早速ポップソングの歌詞を元に時間体験を分析してみたい。

①いま・ここの時間
「Ride on time」山下達郎

Tatsuro Yamashita – Ride On Time

青い水平線を いま駆け抜けてく
とぎすまされた 時の流れ感じて
Ride On Time 時よ走り出せ…

タイトルからして時がテーマの曲。みずみずしい知覚が、まさに今を感じている。身体の感覚を研ぎ澄まして、立ち現れる「いま・ここ」に集中している。

作詞は吉田美奈子。同時期の「いつか」もやはり時がテーマだが、内省的な作品で②や③の要素が強く、異なるアプローチなのが面白い。

②リニアな流れの時間
「Go! Go!」スガシカオ

Go! Go!
スガ シカオ
2003/05/07

飲み会で女子と意気投合する場面から始まる、ストーリーテリング型の曲。

ぼくのことを少し 頼りにしてるのかなぁ…
ほんとに君がもし 困ってるなら
少しだけ ぼくが 力になるよ。

いい雰囲気になってよかったね、とリスナーは思いつつも次の伏線が気になる。

でも あの時すでにワナにはまっていたの?

ワナ? 女に騙されるパターン?と推理させ、

誰にも相談できなかったの…って よくあるパターンらしいんだ

だって君があんなマジメな顔で
ウソついていたなんて

なろほど、お金目当てのウソ? と勘ぐらせ、

君ともう少し話がしたいんだけど…
ほんとに君がもし 望んでるならいいし
1セット買うよ その英会話の教材。

やはりね、とオチがつく。これは予測通り。ただ、男の方に恨んでいるフシが感じられない。その純朴さに予想を裏切られ、ホロっとさせられるところが、この曲の肝だろう。

スガシカオのストーリーテリングに対し、リスナーはリニア(直線的)な時間軸の中で、話の展開を予想する。それは時に予想通りになり、時に裏切られる。裏切られたら軌道修正し、予想し直す。我々の日常的な時間体験の類型だといえよう。

次回は③の「回想と再編成の時間(メタ的な時間)」について書きます。シティポップの記事で触れたノスタルジーとも関わり、まさに人間を人間たらしめるような時間体験。時間の多層性に最も寄与する③について書く予定です。

↓お気軽にコメントを

“時間の多層性とは? ポップソングにおける時間体験を分析してみる①” への3件の返信

  1. Ride On Time は確かに、今、ここ、の曲。けれど、圧倒的な未来も。僕の輝く未来 さあ 回り始めて うつろな日々も すべて愛に溶けこむ 現在と未来を融合する触媒が、愛。今、ふりかえっても、すごい歌詞。ビートきいたメロディ、今のJ-POPに、もうない。

    1. おっしゃる通りですね。Ride On Timeだけで3分類を全てカバーしているかもしれません。今回は3つの類型に当てはめたくて、軽い掘り下げになったことをご容赦下さい。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください