AIは人間よりもいい曲を作れるのか? ①

『作曲アルゴリズムは人間を超えるか?』

やや挑発的なタイトルだが、先に結論を言うと、半分イエスで半分ノーだかなりのレベルのことはAIでも可能だと思っているので、前半はその話を。後半は、それでも超えられない人間の壁があるとしたら何か、という話をしたい。

ところで、久々の投稿となってしまった。元号も新しくなり、そろそろやらねばと思ったのもあるが、もう一つ他のきっかけが。たまたま、ギターでデイヴィッド・ギルモアのフレーズを弾いていて、彼の音使いの特徴を考えていたら、いつの間にか頭の中がAIの話になっていたのだ。これは書くチャンスと思い、ようやく投稿に至った次第。(音楽的な関連記事として、以前プログレについて書いたことがあるので、関心のある方はこちらへ。)

・正統派かつ異色のギタリスト、デイヴィッド・ギルモア

AIの話の前に、なぜデイヴィッド・ギルモアがきっかけになったのかを書きたい。ギルモアは個人的に好きなギタリストなのだが、以前からある点が気になっていた

ピンクフロイドという伝説のプログレバンドのギタリストであるギルモアは、ブルース的な音使いをするギタリストであるが、個人的にはブルースは好きではないのだ。にもかかわらず、ギルモアのギターに惹かれてしまう。その原因は、所謂泥臭いブルースだけではなく、透明感のあるフレーズを聴かせてくれる点にある。

4分5秒からは、それまでの泥臭いプレイから「透明感や浮遊感」に溢れるプレイに変化する←本記事での分析ポイント)

そこで、個人的に好きな「Time」のギターソロのフレーズが生み出す透明感や浮遊感の源を探ってみた。おそらくそれは次の3点ではなかろうか。

①チョーキングの繊細さとスライドの大胆さ。
②マイナーペンタに9thの音を加えている。
③コードトーンに対し9thの響きを活かす。

①は一聴して気づく点かもしれない。だがポイントは、チョーキングの繊細さが音選びの繊細さと繋がっている点だ。それが②や③にも直結しているのではないか。

②ギルモアのフレーズはペンタメインなのだが、要所要所で9thの音を混ぜていることに気づく。それがブルースの泥臭さを消し、透明感を生み出す一因だろう。

ただこれは、ギターに関するtipsとしてたまに載っているはずだ。それだけで、あのギルモアらしさが生まれるとも思えない。そこで③が登場する。

③「Time」は所謂サビの部分で、Dメジャーセブン→Aメジャーセブンの進行を取る。そこに先程の9tnの音が重なると、トライトーンの不安定な響きと、メジャーセブンの切ない響きを生み出すことになる。これがまさに浮遊感の源だろう。

正統派のブルースフレーズに加え、9thの音を要所要所で効果的に織り交ぜてくる。これが、ギルモアらしさの源の一つであり、それはまた彼の繊細な音選びがもたらすものであろう。

さて、ギルモアのギター分析を行い、一つの結論を得て(個人的に)満足したのだが、同時にもう一つのことが頭をよぎった。AIならこの手の分析はすぐ出来てしまうのではなかろうか。さらに、音選びだけでなくフレージングのニュアンスなども、人間以上に細かい点まで分析できてしまうのではなかろうか。そして、次の問いに至ったわけだ。

・AIは「いい曲」を書けるのか?

まず最初に、「いい曲」を定義する必要がある。主観が絡む以上厳密な定義は難しいため、ここでは差し当たり、「いい曲」を「多くの人に受け入れられる曲=ヒット曲」と定義する。所謂一時的に流行るヒット曲であれば、おそらくAIは作れるだろう。その際、AIが参照する要素を以下の3つと仮定する。

①ヒット性のあるコード進行
②ヒット性のあるメロディ
③曲の魅力のツボ、さらに楽器のフレージングやボーカリストの発声のニュアンスなどにも踏み込んだ分析

①や②はもうすでにデータベースとして相当なものがあるはずだ。ただ①②を安直に組み合わせただけでは陳腐なものが生まれてしまうのではないだろうか。そこで、③のレベルの分析が効いてくる。所謂曲のツボや隠し味の分析だ。

①や②だけでは面白みに欠けても、③が機能すれば多数の人が楽しめる曲が生まれてもおかしくない。問題は③のアルゴリズムをどう書くかだ。

上で書いたデイヴィッド・ギルモアのプレイ分析は、ギターを弾きながら、また曲の進行を確認しながら行ったので、結構な時間がかかった。それはそれで楽しい時間なのだが、これを人間の作業ではなくAIで分析する場合、比較的単純なアルゴリズムで組めるのではないだろうか。そして、より多くの分析要素をアルゴリズムに盛り込めば、ギタープレイのツボがさらに明らかになるかもしれない。

所謂曲のツボを分析するアルゴリズム。勿論これが鍵となる。すぐに精度の高いものを作るのは難しいかもしれないが、作曲支援やサンプル生成プログラムのようなシンプルなものなら、作ってみることは可能だろう。その中でクオリティの高いものを参考にして、③のアルゴリズムに組み込んでいく。

①②のデータベースだけでもある程度のレベルが期待できることを考えれば、精度の高い③が加わることで「(それなりの)ヒット曲」をAIが生み出してもおかしくはない

と、ここまでAIのヒット曲生産に対して楽観的なことを書いてきた。しかし、たとえ③のアルゴリズムが組めたとしても、そうはうまくいかないもう一つの要素がある。このAI作曲悲観論については次の投稿で書きたい。

 

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“AIは人間よりもいい曲を作れるのか? ①” への4件の返信

  1. ピンクフロイドに「時間」なんて曲、あったとは。
    ギターの転調、印象的ですね。それに続くコーラスも。
    さて、AIを使えば、これまでのヒット曲コード進行を、全て合成した、誰が聞いても感動できるメロディ、作れるでしょう。
    ただし、そこに崇高あるか? 美を美たらしめる、醜はあるか?

    1. コメント有難うございます。

      AIの限界は次回に書く予定です。美を意味づけるのは人間側ですので、その視点をどう盛り込むのか。

      仰る通り、醜をどう捉えるかもポイントですね。人間は、時として醜を美として捉えうることもあります。AIが表層的な美だけを扱うだけだとすれば、そこに限界があるかもしれません。

    1. コメント有難うございます。

      カルチャー・クラブ、まさにノスタルジーですね。今回のピンクフロイドもお気づきの通り、時間がテーマです。(歌詞分析ではなく音楽分析になってしまいましたが。)

      カルチャー・クラブのTIMEはベースラインが印象的で好きな曲です。分析するなら80年代ポップスという視点で出来るかもしれません。

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