映画におけるどんでん返しのパターンとは? 「イミテーション・ゲーム – エニグマと天才数学者の秘密」を見て思う

『映画の番狂わせ展開をもたらすもの』

前回の「生産性」炎上論でたまたま触れた、アラン・チューリング。昨今のAI時代の大元に彼がいたとすれば、彼の仕事はとてつもない「生産性」を内包していたことになる。彼がまたLGBTでもあったことから、社会には様々な形の「生産性」がありうるという話で取り上げたのだった。

そのアラン・チューリングが主人公である「イミテーション・ゲーム」という映画がある。今回はその映画を見て気づいた、映画における番狂わせやどんでん返しのパターンについて、書いてみたい。

※今回の記事では「イミテーション・ゲーム」などのストーリーに一部触れていますので、ご了承下さい。

まさにコンピュータの如き冷徹な知性である「アラン・チューリング」。ドイツが開発した解読不能の暗号「エニグマ」。そして、以前にも書いた黒澤映画「悪い奴ほどよく眠る」で三船が演じる「西」。…皆全て完璧に物事を進めていくのだが、途中でそれが狂ってしまう。その理由にはある共通点があったのだ。

そのココロは…?エニグマ(攻略不能と言われたドイツ軍の暗号)が解読されたきっかけで説明しようと思う。

それは酒場でやりとりされていた男女の秘密の手紙(暗号ラブレター)だった。その冒頭には必ず恋人の名前が来るという。それを聞いたチューリングは、暗号エニグマにもいつも同じ名前、つまりハイル・ヒトラーが登場するのではないか、と当たりをつけたわけだ。それによってコンピュータの計算量が圧倒的に減り、見事暗号は解読されたのだった。

戦時下の国籍が絡む男女の秘密の手紙だから、その扱いはデリケートなものだ。とはいえ、恋人の名前の部分だけは暗号がワンパターンになるというスキが生まれしまう。

つまり、全て計算づくで完璧に進められるはずのものが崩れてしまう時、その裏には「恋人同士の計算づくではいかない感情」がひそんでいる、というわけだ。

チューリングが常軌を逸した冷徹ぶりがもとで、イギリス政府からクビになりそうな時、それを救ったのは当時の恋人の助言だった。全て理路整然と、自分の思い通りにしか行動しない彼が唯一耳を傾けたのは恋人の言葉だった。

また黒澤映画「悪い奴ほどよく眠る」では、三船演じる西による、完全に計算された復讐劇が遂行されるはずだった。そのシナリオを狂わせたのは、西の妻による不用意な行動だったのだ。

冷徹な理性による完璧な行動。それを崩してしまう恋人同士の関係性。なぜ、この構図が好まれるのか。二つのパターンで考えてみよう。

①敵役の冷徹で計算高い行動→恋人間の不確定な行動がきっかけの打開(思わぬ展開をロマンチックに納得させるパターン)
・イミテーション・ゲーム

②主人公の冷徹で計算高い行動→恋人間の不確定な行動による失敗(思わぬ展開も仕方ないと納得させるパターン)
・悪い奴ほどよく眠る

人間離れした冷徹な理性やロジックはそう簡単に崩れない。それを人間らしさである恋人間の感情が崩すのであれば納得がいく、というストーリー解決のパターンがここに見てとれる。

意外な展開の映画の一つである、トム・クルーズ主演の「オブリビオン」も①の例だろう。クローン人間により冷徹に管理された未来世界。それを打ち破ったきっかけは、クローンの元となったトム・クルーズの遥か昔の恋人が現れたことだった。一見荒唐無稽なストーリーも、恋人間のロマンチシズムで納得させてしまう。

そして、思わぬストーリー展開の代表作品である「ユージュアル・サスペクツ」が示唆的だ。敏腕刑事が睨んだ犯人は、恋人に女弁護士がいる男だった。2人の関係はいかにもスキをもたらすようで説得力がある。だが本当の犯人は、女性の影が全くない地味な男で、まさに彼こそが完全犯罪を全う出来たわけだ。

では、この手のパターンを好むべきか、好まぬべきか?

勿論、人それぞれの好みの問題だろう。だが、映画に常にエンターテイメントやカタルシスを求めるわけではない自分にとっては、無理にロマンチックに解決したり、納得させようとしなくてもいいのに、と思ったりするのだ。そもそものきっかけは、以前の投稿の「黒澤明の映画に登場する女性ってどうよ」に遡るので、よかったらそちらもお読み頂けると有難いです。

 

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“映画におけるどんでん返しのパターンとは? 「イミテーション・ゲーム – エニグマと天才数学者の秘密」を見て思う” への2件の返信

  1. 観たのは上映時なんですけど、ふと思い出してググって来ました。
    酒場でやりとりされていた男女の秘密の手紙は男はドイツ側で女側はイギリス側でしたっけ?

    このの部分は実話なんですかね?

    1. コメント有難うございます。

      実際は、
      ①ドイツ軍からポーランドへと情報が漏れる
      ②ポーランドがドイツ侵攻までに解読が間に合わないと見て英仏にさらにリークする
      ③それを元に、英のチューリングが、さらに汎用性の高い解読法を開発する

      という流れだったようです。
      これはこれで、へぇ〜という面白さはあるのですが、そこはそこ。

      本記事で書きましたが、やはり難題を、男女のロマンスという不確定なものによって解消する。これが納得装置として、様々な映画に組み込まれているのではないか。という趣旨でした。

      チューリングは、新しいイギリスの紙幣になったようですし、まだまだ影響力がありますね。この映画もまた、色々な示唆があって面白いですよね。

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