『エンターテイメントか人間描写か』
黒澤映画の話題なのに、あまり侍映画に触れていない。そう、自分は侍映画以外に惹かれているのだ。「用心棒」などはケチのつけようのない作品で、まさに痛快だった。でも「野良犬」の方に惹かれてしまう。
その理由を探るために、黒澤映画をもう一度分類してみよう。
黒澤映画のカテゴリー
〈エンターテイメント〉
用心棒などの侍映画
天国と地獄
〈人間描写〉
羅生門
酔どれ天使
野良犬
静かなる決闘
どん底
白痴
ここでいう〈エンターテイメント〉は、「ストーリー展開の痛快さを重視」したものだと考えて欲しい。そしてそれがまさに、自分が黒澤映画の女性像に物足りなさを感じる原因なんだと思う。
つまり多くの作品で、女性は「ストーリー展開のパーツ」になっているだけで、その「内面や葛藤が見えてこない」のだ。
エンターテイメントとして「流れるような痛快なストーリー展開」を重視するあまり、「役から滲み出る人間性を味わう隙間」が失われているともいえる。
たとえば、「悪い奴ほどよく眠る」は〈エンターテイメント〉性がある分だけ、本来ならもっと緻密に出来たはずの〈人間描写〉が希薄になっている一例だと思う。
一方で、「野良犬」もやはり〈エンターテイメント〉ではないかという声があると思う。ただ「野良犬」はストーリー展開に追われるタイプの作品でない分、それぞれの役の人間性を味わえる隙間がある。だからこそ自分は惹かれてしまうのだ。
また前回触れたように、むしろ脇役の女性たちの方が、めまぐるしいストーリー展開の外側で、人間性を滲ませる隙間を持っていることも指摘できよう。
では〈エンターテイメント〉は悪なのだろうか。いやそうではなく、それは間違いなく黒澤映画の一部である。ただ願わくば〈エンターテイメント〉を捨てて、〈人間描写〉に特化するような黒澤作品を個人的に見てみたいと思ってしまうのだ。
そう思わせる作品を最後に紹介したい。
(監督)木下恵介 (脚本)黒澤明 「肖像」
・ボタンをクリック→映画の予告編が試聴できます。
痛快なストーリー展開などはない。ただその分、登場人物たちの人間性や葛藤などを味あわせてくれる作品。こういう脚本を書くのだから、〈エンターテイメント〉から遠い作品を作ったって、きっと魅力的だったはずなのだ。
お気軽にコメントを↓
———なんとタイムリーなことに、三船敏郎をフィーチャーした映画
『MIFUNE: THE LAST SAMURAI』
が5/12(土)から公開されます!
ここでは黒澤映画の女性について書きましたが、三船敏郎の魅力についてもいずれ書きたいと思います。トレーラーを見るだけでも、グッと惹かれるものがありますから、興味ある人は是非チェックを。